古月琴坊は、中国江蘇省南部(上海の北西)の商工業都市“無錫(むしゃく)”という街にあります。
1990年に萬其興氏が無錫市で初めての人民公社工場である『梅村楽器工場』から独立、現在の『古月琴坊』が設立されました。
中級・高級モデルの二胡を主力商品として1992年に創業を開始した、二胡の世界では比較的新しい工房ですが、今日までわずか十数年の間に、数名の従業員から約50名まで増員し、数千平方メートルの自社工場を所有する企業へと成長しました。
萬其興氏が丹精込めて育て上げた二胡は“萬スタイル”と呼ばれる特徴を持っています。音量は大きく良く通り、パワフルで、音色はふくよかで柔らかく、上から下までスムーズなポジション移動が可能です。まるで江南地区の水郷のように柔らかで美しい二胡の響きは、多くの著名二胡奏者から認められています。
職人の大半が萬其興氏の弟子であり、“萬スタイル”の楽器製作技術がここで引き継がれています。萬其興氏は弟子への指導に非常に熱心なことでも有名で、彼に二胡製作を学ぼうと、古月琴坊の門を叩く若者も少なくありません。
特に、二胡の喉とも言えるニシキヘビの皮張りの工程は、そこの発声次第で音色が左右されるという最も重要なポイントです。萬其興氏の技術を受け継いだ職人が、微調整しながら張って仕上げて行きます。
二胡の最高級木材として使用されてきたインド産小葉紫檀は、現在、入手が非常に困難な状況になってきているため、それに代わる材料として、赤みを帯びたアフリカ産小葉紫檀材が広く出回るようになりました。写真は、材料を仕入れた後、棹となるアフリカ産小葉紫檀を、工房内においてシーズニング(乾燥)中の風景です。
老紅木二胡の材料には、古い建物や家具を解体したものを使用しており、写真はその中でも、元家屋の柱となっていた部分です(中央に置いた携帯電話で大きさを比較して下さい)。建物になってから100年以上経ったものを使用しているため、樹木の成長期間を合わせると、400~500年以上経過した木材ということになります。
古月琴坊二胡に使用されている蛇皮は、主にミャンマー、ラオス、タイ、ベトナムなど東南アジアの熱帯雨林産ニシキヘビの皮です。野生ニシキヘビは、森林破壊や乱獲によりその数が激減しているため、現在は、森林の一定エリアを囲い、生きた餌を与えることで養殖されています。
3~4才の雄蛇の背中部分が、鱗の大きさが均一で、弾力性があり良質とされており、一枚の蛇皮から、高・中級機種で5本分、入門用クラスの機種で6~7本分の二胡が製作できます。写真は、工房に備蓄してある約4mほどのニシキヘビ皮です。